「将来、どうなりたいの?」|日本代表監督に問われた一言が、私の仕事になった
「プロになるのは、やめた方がいいと思う」
大学4年の10月。メディカルチェックの結果を聞きに行った私は、別室に呼ばれ、医師にそう告げられた。契約の提示はすでにもらっていて、あとは入団先を決めるだけだった。12年間が、その一言で終わった。
広島に生まれ、サンフレッチェ広島のジュニアユース、ユースと育った。U-14からアンダー世代の日本代表に呼ばれ続け、久保建英、菅原由勢、瀬古歩夢、中村敬斗と同じ合宿で寝起きした。高3の冬には高円宮杯で背番号10を背負い、日本一になった。順天堂大学で急性腎不全になり、闘病はおよそ2年。4年でリーグ戦に戻り、6クラブから練習参加のオファーが来て、いくつかから契約提示ももらった。やっとみんなに追いついた、と思った矢先である。ヨーロッパ5部やシンガポールからの話はあったが、目指していた場所ではないと判断し、2022年12月に引退した。
親の質問は、たいてい「過去」に向いている
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保護者から受ける相談を聞いていると、子どもへの問いかけがほぼ二種類に固まっていることに気づく。「今日の試合どうだった?」と「なんであそこでミスしたの?」だ。どちらも悪意はない。関心の表明である。ただ、どちらも矢印が過去を向いている。過去に向いた問いに、子どもは言い訳か沈黙でしか答えられない。
私が本当に効く問いを知ったのは、指導者としてではなく、家のない23歳としてだった。
引退した私は就活をしていなかった。慌てて取った内定は納得できずに辞退し、留年してもう1年勝負すると決めた。2度目の就活で内定をもらったが、入社は翌年4月。1年が空いた。地元でジムのバイトをした。一番きつかったのは、きつさではなく退屈だった。半年前まで「プロになる」の一点で生きていた人間が、受付に立っている。このままだと腐ると思い、家族を説得して一文無しで東京に出た。バイトで食いつないだが、帰る家がない。友達の家を転々とし、やがて泊めてくれとも言えなくなり、公園やネットカフェで寝た。9月まで、いわゆるホームレスだった。
その9月、親友の森保陸が留学から帰ってきた。サンフレッチェ時代の同期で、森保一監督の三男である。ほぼ毎日会ってボールを蹴った。プロへの道が閉じても、サッカーだけはやめられなかった。流れで彼の実家に行き、事情を話した。森保さんは責めなかったし、驚きもしなかった。当たり前のように「住んでいいよ」と受け入れてくれた。そこから約半年、私はあの家に居候した。
あの問いが効いた理由は、三つある
半年で交わした会話のほとんどを、私は思い出せない。たわいもない話ばかりだった。ただ一つだけ、鮮明に残っている問いがある。
「陸人は将来、どうなりたいの?」
なぜこれが効いたのか。一つ、過去を責めなかった。プロになれなかったことも、家がないことも、一切問われなかった。二つ、未来だけを聞いた。世間話の「で、これからどうすんの?」ではない。三つ、本気で聞いた。相手は選手でも教え子でもなく、ただの息子の友達である。実績は過去のもの、家なし、金なし。それでも、その23歳の未来に本気で付き合ってくれた。
言葉ではなく、生活が示す
忘れられない光景がある。あの家は、風呂場にメモ帳が置いてあった。試合中に書き続ける「森保ノート」は有名だが、あれはカメラの前のパフォーマンスではなかった。気づきを逃さないという姿勢が、生活そのものだった。就任会見で掲げた言葉は「覚悟と感謝」。前回大会のクロアチア戦へ向かうバスの中で「日本に不可能はない」と書いていたことも報じられている。言っていることと、していることが、ずれていない。
子どもに何かを渡したいなら、まずここだと思う。問いの前に、その問いを支える生活があるかどうか。
もちろん、こういう反論があるはずだ
一つ目。「小学生に将来を聞いても、答えられない」。その通りだ。答えられなくていい。私は23歳で、しかも一文無しで、あの問いに即答できなかった。意味があるのは答えではなく、聞かれ続けることだ。問われた子は、問われた回数だけ自分の未来を考える練習をする。
二つ目。「夢を聞くとプレッシャーになるのではないか」。プレッシャーになるのは、問いのあとに評価がくっついているときだけである。「将来どうなりたいの?」の直後に「じゃあもっと走らないとな」と足した瞬間、それは問いではなく指導になる。聞いたら、黙って聞く。それだけでいい。
私と彼らを分けたのは、才能ではなかった
向こう側に行った同世代との差は、才能でも病気でもなく、ビジョンの差だったと私は思っている。W杯で活躍する、そのために今日何をするか。少なくとも14歳の時点で、彼らはそこから逆算して生きていた。私にはそれがなかった。だから進路の岐路で、楽なほうに流れた。
受けた恩は、返せる相手ではない。だから送ることにした。私はいま、子どもたちに、あの日されたのと同じ質問をしている。
今週末、試合のあとに一度だけ、この問いを投げてみてほしい。「将来、どうなりたい?」。ダメ出しの前に、一回だけでいい。
問いの投げ方や、返ってきた言葉の受け止め方に迷ったら、そのまま持ってきてください。ご家庭の状況に合わせて、一緒に言葉を組み立てます。
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